2022年度の日本スポーツ協会への暴力パワハラ相談が373件と過去最多になったようです。私のところへの相談も増えているように感じます。

 これはおそらくパワハラ事案が増加したというよりも保護者や選手のコンプライアンスの意識やスポーツに対する意識の変化から問題視する件数が増えているものと思われます。

 現在、大学の部活改革、行政における地域移行、民間スポーツクラブの相談等を行っていて感じることは日本のスポーツ界は体育からスポーツへの過渡期にあり本格的に改革に乗り出さなければ大きな問題に発展する瀬戸際に来つつあるということだと思います。

 日本では、歴史的に富国強兵の流れで体育教育がなされ、楽しむことよりも精神、身体の鍛錬のための体育、学校教育の一環としてスポーツが子供に教えられてきた流れがあります。このような流れには、おそらく武士道的な思想を背景に教育がなされるといったこともあるように感じます。そして、そのような思想を色濃く残した昭和・平成初期に学校における部活動という特殊な空間で指導を受けてきた現在の指導者の中には、軍隊的な規律や鉄拳制裁も許されるといった、日本社会で独特の言い回しで表現される「体育会系」という概念の下で選手生活を過ごしてきた方も多いところです。そして、私自身も体育会系の部活動で選手生活をしてきましたから、そのような独特な空間や思想はよくわかるところであり、全く悪いと言い切れるものではないことも認識しています。

 ただ、指導者第一、チーム第一的な全体主義のような考え方は、個人主義、楽しむことが中心となる現代にはそぐわない考えになってきているのだと思いますし、コンプライアンス、ガバナンスが叫ばれる現代において、いくら私的自治的で特殊な団体であるスポーツ団体であってもその流れに抗うことはできない時代です。

 そのような流れの中で、これまで平成の間は何とかマイナーチェンジを繰り返しスポーツ界もその流れに合わせながら走ってきたと思います。しかし、メジャーリーグで毎日活躍する大谷選手がメディアで取り上げられ、欧米式の楽しむスポーツが徐々に根付き、さらには少子化が進み、いつでもどこでもスマホで録音、録画、写真撮影が可能で保護者や周りの目が厳しい時代に昭和の体育会系的な組織、発想の指導者は問題視され、本格的な改革に乗り出さなければ紛争に巻き込まれる時代に突入したという肌感覚があります。

 今後のスポーツチーム、クラブは、旧態依然とした思想に囚われずコンプライアンス、ガバナンス体制を強化し、事件、事故を生じさせない予防的な態勢作りが求められています。そのための体制を構築していき本質的な意味でのスポーツの価値を高めていくことが各指導者には求められていると思います。